北朝鮮の軍歌「攻撃戦だ(공격전이다)」――通称「コンギョ」。
重厚なメロディと力強い歌声、そして「コンギョ!」という連呼が耳に残るこの曲が、近年日本のネット文化の中で異様な盛り上がりを見せています。特にニコニコ動画やYouTubeではMAD動画やミーム化が進み、若者の間で「聞くと元気が出る」「なぜか笑える」と話題になりました。
しかし、本来は北朝鮮の“経済総攻撃戦”を鼓舞する真面目なプロパガンダソング。
この曲がなぜ、国境を越えて日本のネット文化に受け入れられたのか――その理由と背景を徹底的に掘り下げます。
コンギョはなぜ流行った?意味と人気の理由を徹底解説
北朝鮮発の軍歌が、なぜ日本のインターネット文化でバズを生んだのか。その背景には、音楽的要素・映像文化・ネットミームの融合という複合的な要因があります。ここでは、コンギョの意味や成り立ち、SNSでの拡散経路などを体系的に整理します。
コンギョが流行った理由は?ネットでブームになった背景
コンギョが話題となった最大の理由は、“意外性”と“中毒性”です。北朝鮮という政治的に硬いイメージの国から発信された曲が、まるでロボットアニメの主題歌のように勇ましく展開する。このギャップが、ネット民の好奇心を刺激しました。
さらに、2017年頃からYouTubeやニコニコ動画でMAD(編集)動画が増加。「攻撃!攻撃!攻撃戦だ!」のリズム感がゲーム実況やネタ動画との相性が良く、視聴者に強烈な印象を残しました。
とくに弾き語り系YouTuber・ゆゆうた氏やモノマネ動画のぷりん将軍などが扱ったことで拡散が加速。
SNSでは「なぜかテンションが上がる曲」「勉強中に聞くと元気になる」といったコメントが多く寄せられ、結果として一種の“ネット応援ソング”として定着したのです。
コンギョの意味とは?「攻撃戦だ!」の正しい訳と由来
「コンギョ(공격)」とは韓国語で「攻撃」を意味する言葉で、正式な曲名は「공격전이다(コンギョッチョニダ)=攻撃戦だ」。
この曲は2010年1月、北朝鮮の労働新聞に発表され、作詞はユン・ドゥグン、作曲はアン・ジョンホ、歌唱はユン・ヘヨンによるも
のです。制作の目的は、国家の経済再建を目指す「総攻撃戦」を人民に呼びかけるものでした。
つまり、戦争や暴力を煽るものではなく「全員で経済建設に突き進もう」というスローガン的な意味合いを持っています。
ただし曲中の“攻撃!”という言葉の連呼や激しいメロディが、聞き手に軍歌的・戦闘的印象を与えました。その力強さが、日本では“パロディ”や“ネタ曲”として再解釈され、結果的に人気を集める要因になったのです。
北朝鮮の軍歌が日本で人気化したきっかけ
日本で最初に「コンギョ」が注目されたのは2010年代前半。
当時、YouTubeに転載された北朝鮮の映像が“異世界のような雰囲気”で話題となり、BGMとして流れていた「攻撃戦だ」が耳に残る曲として注目を集めました。
2011年にはサッカーW杯アジア予選「北朝鮮vs日本」の試合で、スタジアムの観衆5万人がこの曲を合唱。その映像が報じられたことが、再注目のきっかけとなります。
また、JOYSOUNDが一時期“NK-POP(北朝鮮ポップ)”枠としてカラオケ収録を検討したことも話題に。「カラオケで歌える日が来るのか!?」という期待がSNSで盛り上がり、ネットニュースやまとめサイトを通じて一気に拡散したのです。
こうした「現実離れした現象」が、逆に面白がられ、ブーム化していきました。
ニコニコ動画・YouTubeでのミーム化の流れ
コンギョブームの中心は、まさに“ネットミーム文化”です。
2013年には、淫夢系MAD「北朝先輩」などでネタとして使われ、以降「コン↑ギョ↓」という独特のイントネーションも定着。動画のオチや演出に組み込まれ、ネットユーザーの間で「コンギョ=笑えるネタ曲」として認識されました。
さらに、YouTube上ではピアノ演奏・ギター弾き語り・合唱アレンジなどが次々に投稿され、2020年代に入るとTikTokでも「攻撃戦だダンス」「#コンギョで元気出す」といったハッシュタグが生まれるまでに拡大。
“笑えるけど、曲としてカッコいい”という絶妙なバランスが、長く愛される要因となっています。
コンギョが「笑える曲」になった文化的背景
なぜ本来は国家的プロパガンダソングである「コンギョ」が、“ネタとして笑える”曲に変化したのか。
その理由は、日本のネット文化に根付いた「パロディ精神」と「音楽の距離感」にあります。
日本ではかつてから、海外のシリアスな映像や軍歌を“ネタ化”する文化が存在しました。たとえばロシアの「もすかう」やルーマニアの「マイヤヒー」など、国境を越えて“笑いに変換”されるミームは多いです。コンギョもその延長線上にあり、政治性を抜きにして“音楽としての勢い”を楽しむ対象になりました。
さらに“攻撃”というシンプルなフレーズがリズム的にも覚えやすく、日常のストレスや笑いの文脈にマッチしたことで、世代を超えて浸透していったのです。
コンギョなぜ流行ったかの後に:取り巻く文化と人物
コンギョブームは単なる一過性のネタではなく、関わった人々やアレンジを通して独自のサブカルチャーを形成しました。ここでは、作り手や拡散に関わった人物、そして社会的な受け止め方を見ていきましょう。
作曲者・アン・ジョンホと歌手ユン・ヘヨンのプロフィール
コンギョを作ったのは、北朝鮮の著名な作曲家アン・ジョンホ。彼は普天堡電子楽団の主要メンバーとして活動し、電子音楽を北朝鮮のプロパガンダに導入した先駆者です。
この楽団は“北朝鮮のYMO”とも称され、1980年代から電子サウンドと愛国歌を融合させる革新的な試みを行ってきました。
歌を担当したユン・ヘヨンは女性シンガーで、伸びやかで透明感のある声が特徴。「攻撃戦だ」では、軍歌的でありながらも希望を感じさせる歌声を披露し、楽曲の印象を大きく高めました。

彼らの高い音楽性があったからこそ、この曲は“プロパガンダ以上の完成度”を持つ楽曲として、世界中で語られるようになったのです。
ゆゆうた・ぷりん将軍らYouTuberによる拡散の影響
現代のコンギョ人気を支えたのは、間違いなくYouTuberたちの存在です。
特に弾き語り系配信者・ゆゆうた氏がピアノで「攻撃戦だ」を演奏し、リスナーの間で爆発的に話題化しました。その後、モノマネ系YouTuber・ぷりん将軍とのコラボで生まれた「棺桶コンギョ」などの動画はSNSでも拡散し、TikTokやXでもネタ化。
こうした動画では、政治的な意味合いを排除し“単純に盛り上がる曲”として扱われたことが特徴です。これにより、コンギョは「危険な歌」ではなく「ネタとして楽しめる音楽」として認知され、若年層を中心に受け入れられました。
つまり、コンギョの再評価は、ネット時代の二次創作文化が生んだ“リミックス的共感”の象徴なのです。
モランボン楽団版コンギョのアニメ的アレンジとは
2017年に公開されたモランボン楽団によるアレンジ版「攻撃戦だ」は、ネット民の間で“北朝鮮製アニソン”と呼ばれるほど話題を呼びました。
原曲の荘厳な行進曲スタイルに対し、こちらはエレキギターやブラスを取り入れたアップテンポな構成。まるで1970~80年代のロボットアニメの主題歌を彷彿とさせるアレンジが特徴です。
このアニメ的なサウンドが日本のリスナーの耳に馴染みやすく、「懐かしいけど新しい」「戦闘シーンに合いそう」と好評を得ました。また、映像面でもきらびやかな照明とダイナミックなカメラワークが使われ、従来の軍歌の堅苦しい印象を覆す“エンタメ的完成度”を示しています。
この版がSNSを通じて拡散されたことで、コンギョは単なる軍歌ではなく“視覚と聴覚を楽しむミーム音楽”へと進化したのです。
学校で流すのはNG?コンギョが問題視される理由
一方で、コンギョを“学校や公共の場で流す”ことには注意が必要です。
本来この曲は、北朝鮮国内で国家の士気を高めるために作られた政治的プロパガンダソングです。そのため教育現場などで不用意に流すと、「政治的意図がある」と誤解される恐れがあります。
実際、SNSでは「文化祭でコンギョを流して注意された」「音楽の授業でネタとして再生したら先生に止められた」といったエピソードも報告されています。
また、北朝鮮の体制を称える内容を知らずに使うと、歴史的・倫理的観点から問題視されることも。これは「笑いのために他国の政治的象徴を軽視している」と捉えられるリスクもあるためです。
したがって、コンギョを楽しむ際は“ネタとしての距離感”を保ち、政治的意味を理解したうえで扱うことが重要です。
コンギョブームが示す“ネット文化の遊び心”とは
コンギョブームの根底には、現代ネット社会特有の「文脈の再解釈」があります。
もともと真面目な曲が、国境を越えて“ネタ”や“エンタメ”として受け入れられる背景には、ユーザーが常に新しい意味を見出し、共有していく文化的仕組みがあるのです。
コンギョはその象徴的な例であり、「国家の士気を高める歌」から「気分を上げるミーム音楽」へと180度異なる文脈で再生されました。これは、情報が瞬時に拡散し、どんなコンテンツも“ジョーク化”できる現代インターネットの力そのもの。
同時に、コンギョブームは“笑いと風刺で政治を中和する”という文化的成熟も示しています。皮肉やユーモアで重い題材を軽やかに受け止める――それこそが、ネット時代の「遊び心」の本質なのです。
総括:コンギョはなぜ流行った?まとめ
最後に、本記事のまとめを残しておきます。
- コンギョ(공격전이다)は北朝鮮の軍歌であり、2010年に制作された「経済総攻撃戦」を鼓舞するプロパガンダソング。
- 日本では曲の勇ましさと“コンギョ!”の連呼がネット民の興味を引き、2017年頃からYouTubeやニコニコ動画を中心にブーム化。
- 「攻撃戦だ!」というシンプルでリズミカルな歌詞、アニメ風のメロディ、異国感が相まって“笑えてカッコいい”曲として再評価された。
- YouTuberのゆゆうたやぷりん将軍などが拡散し、MAD動画・合唱・弾き語りなど多様なリミックス文化を生んだ。
- モランボン楽団によるアレンジ版は“北朝鮮アニソン”と呼ばれ、映像・音楽両面でエンタメ性が高く評価。
- ただし学校など公共の場で流すのは政治的誤解を招く可能性があり注意が必要。
- コンギョブームは、ネット文化がもつ「真面目なものを笑いに変える再解釈力」と「ユーモアによる政治の中和」を象徴する現象である。

